楓はとても楽しそうな笑みをその顔に湛え、そのボタンを何の躊躇いも無く押した。

楓「ポチッとな」

―――ドゴオォォォン!!

その瞬間、居酒屋『逝』は最も輝く時を迎えた――――


プロローグ



F「今日は、ちょっと皆さんに殺し合って貰おうと思う」

群集の前に立ちFはそう一言告げた。

 ざわ・・・
          ざわ・・・
   がや・・・
            がや・・・

周りは驚きや現状を理解していない者達が思い思いにざわめきを立てていた。


そんな中、殺助ー改は群集の群れを一人で裂きFの前に立ちはだかった。

殺助「死ね、ヴォケ!」

そしてFに対して『最期の』一言を告げた。
Fは無言で予備動作も無く銃を懐から抜き出し、そして……

パーン

1発の渇いた音が響き、その銃口の先に存在していた殺助は眉間に一撃の銃弾を浴び、その短い人生とこのゲームに早々とその幕をおろすこととなった。
そのあまりにも突然な出来事に、ざわめいていたその場の全員が一斉に静まり返る。

F「他に反対する者は居ないな?」

黒く怪しく煌くその手の中のモノを目の前に集まっている参加者に照準を流しながらFが辺りを伺ったが、反抗するものは現れるはずもなく――――否、初めから現れる事さえ許されては居なかった。
Fは満足気に頷き参加者に対して一際大きな声で言い放った。

F「それでは各自にコレを持ち、存分に殺し合うがよい!」

そう言うとFは副管理人のkasumiに指示を出し、
命令を受けたkasumiは参加者一人一人にデイパックを渡していった。
kasumiが配っているデイパックはFが『コレ』と称した物でF自身左手にそのデイパックを携えている。
このデイパックの中には今回のゲームに最低限必要な道具と食料、そして何より殺し合いに必要とされている武器が同伴されている。
尤も、その武器には『当たり外れ』があるので全ての参加者が当たり武器を貰えると言うわけではない。

武器を配り終えたkasumiは最後に自分の分のデイパックを管理人本人から貰い受け、自らの指定位置へと戻って行った。

F「ちなみに言っておくが、逃げようとは思わないことだ。君達の行動は常に監視している。下手な行動をすれば……」

そう言い、Fは無機質で飾りっ気のないシンプルな機械をちらつかせる。

F「まぁ、これ以上は言う必要は無いだろう。……それでは各自こちらの指定する順番で退出してもらおうか。
  それではまずはクレスト、君から退出していただこう。」

指定されたクレストは一旦自らの仲間と思われる面子に視線を送り回れ右をしてFを正面に捕らえ、

クレスト「アンタは!アンタだけは俺が必ず殺してやるッ!!」

言い放ち、Fの指定した出口から外へと向かった。

F「威勢が良いのは結構だがそれは『不可能』だ、一旦この場所から離れれば二度とここには戻っては来れまいし、
  万に一つ、例え侵入できたとしても私を殺すことは出来ない。
  何故なら君が―――いや、君達が考えているよりも私は遥かに、強い」

クレストは背中でその声を聞きながらも振り返ることなく出口へと向かう。足を止める事は無かった。

クレストが退出してから凡そ1分もしない内にFはkenを指名して彼に別の出口を指定し向かわせた。
指名時にkenが『アンタを殺すまでもない。生き残るのは俺やからな。』そう言い放ったのを聞いて、
未だ殺助ー改が死んだ事を信じれきれていない人間も、
これが現実じゃないと思い込んでいた人間も、
その言葉が『真実』であると思わずにはいられなくなってしまった。
何故ならそれ程までにkenからは強い意志が感じられたから……


それからFは次々と人を指名し、皆はそれぞれの思いを描き各自指定された出口から退出していった。
そして気付けばそこにはFを除いて僅か2名しか残っていなかった。
残っているのはF、副管理人のkasumiそして和泉 楓の三名だけ。
3人はしばらく何も話すこともせず、ただその場に佇んでいたが、既に最後の早坂紫苑が退出してから20分程が経過した時…
楓の手にはいつ取り出したのか、シンプルな作りのスイッチが握られていた。
そして。
とても楽しそうな笑みをその顔に湛え、そのボタンを何の躊躇いも無く押した。

楓「ポチッとな」

―――ドゴオォォォン!!

爆発音と共に物凄い地響きが響く。

F「流石だな……楓」

その顔に僅かな笑みを浮かべたFが揚々と楓を称えた。
Fが何を以って和泉楓を称えたのかは、眼前の窓から見える風景が全てを物語っている。
今見えている範囲だけでも黒煙が煌々と立ち込めているし、見えていない部分も惨劇になっているのは容易に想像が付く。
kasumiは暫く窓の外に魅入っていたが、直ぐに振り返り和泉に激しい視線を向けた。


kasumi「殺し合いを潤滑させるために一部のデイパックに爆弾を仕込む事は聞いていたが、居酒屋自体を爆破するとは聞いていないぞ、楓!」

言い終わるより早く体は反応し、彼女は瞬時に自分の配給武器であったミステイツクルメタルナイフを取り出し楓の懐に飛び込んで喉元に突きつける。
しかし、楓はその行動を目の前にしても微動だにすることなく不敵に笑みを浮かべたまま

楓「……それでウチを殺すん?
  kasumi、『それ』もウチの手が掛かってるの、解っとるん?」

さまざまな意味のとれる解りにくい言葉を使いつつ、楓も自分の配給武器であるSG20ニードルガンを抜き取る。
―――SG20ニードルガン、仕組みは弾であるニードル、つまり鉄針を撃ち出すという極めて単純な射的武器であるが、
その威力は並みの銃器をも凌ぐ、一度に千本以上の細長い鉄針を磁力で撃ち放つ仕組みをしており、
岩をも砕くほどの高い威力と殺傷能力を備えている―――
と、そこに1人静観していたFが二人に対して静かに、しかし確実な殺気を以って銃口を向ける。
右手には殺助ー改を撃ち抜いたPP14Kプレジデント、
左手にも何時の間に取り出したのか同じく2挺目を握っている。

F「それ以上行動を起すならこの場で二人共眠ってもらうぞ?」

その言葉に嘘はなく、その銃口は楓、kasumiの頭を確実に捉えている。
それに対して楓は『冗談や』とおどけてニードルガンを下げる。
対してkasumiは苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を浮かべつつも、無言でナイフを下ろした。

kasumi「……悪いけど勝手に行動させてもらうわ」

踵を返し正面に見える出口に向かう。

F「邪魔をすれば命は無いぞ?」

脅しを込めた忠誠の再確認にも、kasumiは答えることなくそのまま出口へと消えていった。

F「楓も解っているだろうな。」

和泉もまたその問いには答えず、やはり不敵な笑みを浮かべkasumiとは違う出口へと消えていった。

F「やれやれ………」

開始早々に一人残されたFも重い溜め息を吐きながらその場を後にした。
向かった先は、出口ではなく管理人室。
そうして、そのフロアからは誰一人居なくなった。

殺し合いゲーム―――『A2Bバトル・ロワイアル』はこうしてそのストーリーの幕を開けたのだった……




BACK