炎は既に際限なく広がり居酒屋『逝』は業火に包まれていた。

八牧「何事だ……」

気力を振り絞ってようよう出た言葉がそれだった。
それ程までにその光景は凄惨なものだったから……


Scene 01



スタートはkenから数えて32番目と比較的早くスタートをした八牧 茂は
地図を片手に、真っ先に居酒屋『逝』を目指して走る。
酒を呑む為ではない。
この有無も言わさず始められた無意味な殺人ゲームに『参加など出来るか』と思っていた八牧は、
同志を集う為に居酒屋を目指したのだ。
居酒屋に10分少々掛かって着いた八牧は、一瞬戸を開けるのを躊躇したが
中から談笑も聞えた事もあり、覚悟を決めて開ける事にした。

(まさか開けた瞬間撃たれると言う事はあるまい)

一応用心の為に、PG66Eスタンロッドに手をかけておく
―――これは八牧に配給された武器で、普段は手の平サイズ以下の小さな筒状の棒だが
強く振ることによって収納されている先端が飛び出し、警棒状の武器と化す
長さは大体2尺程度と、そこまでは長くは無いが
内蔵されている装置により電流を流す事が出来るので、リーチ面の欠点を補っていると言える
このスタンロッドは八牧にとって、当たり寄りの武器と言える部類かもしれない―――

戸を開けるとそこには店長のフィーネ・エレンシアを始め

(……そう言えば彼女はスタート地点に居たか?)

自分よりも先にスタートを切っていたPS2、Joe The Apachなど総勢9名ほどが集まっていた。
彼らに攻撃する姿勢が見えないので、こちらも用心を解き居酒屋に上がり込む。

フィーネ「あ〜!いらっしゃ〜い♪」

入って直ぐに、カウンターで酒をラッパ飲みしているフィーネから声を掛けられる。
こんな状況にも関わらずフィーネは既に出来あがっている、時間はまだ昼にも為ってないというのに……
思えば彼女が素面の時の記憶が無い。

奥を見やるとフィーネと向かい合う形で、カウンターに腰掛けていたPS2が自分を手招きしている。
側に寄るなり「八牧さんも逃げてきたのかい?」そう笑って言って、最後に目を細め「このゲームからね」と付け加えた。
度々思うことだが、容姿と口調が合っていない時があるのは気のせいだろうか?
そのままPS2の隣の席に腰掛け、現状とこれからについての会話を交わした。
そうしてPS2、Joe The Apach、フィーネ・エレンシアと会話を数十分交わしていると居酒屋の戸口が開いた。
10人目の来客はロイドであった。
彼もまた「このゲームから逃げてきた」と話し八牧らの会話に加わった。
更に時間は流れ、最終的には総勢30名余りのゲームからの逃亡者が集った事になる。
彼らとの会議の結果、団結してFを倒し、こんな馬鹿げた事は終わらせようと言うことが満場一致で決まったのだ。

Joe The Apach「なら、今飲んでるこのお酒が空になったら行動を起こすとするか。」

そう言うと周りに『微少年』を掲げて一杯煽った―――


PS2が八牧とロイドを外に連れ出したのは、Joe The Apachが『微少年』をみんなで煽っている時だった。

八牧「どうした?」

PS2「ちょっと酔いを醒まそうと思ってね。」

そう言いながら、右手に持っている『月見語り』を瓶ごと口につける。

ロイド「酔いを醒ますなら、取り合えずその酒を置いたらどうだ?」

笑ってPS2にツッコミを入れて「本題は?」と尋ねた。

PS2「実際、今の状態をどう思う?」

八牧「どうって、さっきその事については話しただろ?」

確かに、ついさっきまで揃った面子で現状について話していたところだった。

PS2「そうなんだけどね、でも二人の本音はまだ聞いてないからね。」

言ってまた瓶に口を付ける。

PS2「さっきまでの意見は皆を不安がらせない為の意見でしょ?二人の本当の意見は?」

八牧は内心PS2に感心した、確かにPS2が言った通り今までの意見は嘘ではないにせよ、本心の意見でもなかったのだから。
それはロイドも同じようで、彼も考え深げに俯いてやがて視線を上げた。

ロイド「俺の意見は」

そうロイドが言いかけた時、後方に存在していた居酒屋が突如爆音と共に炎に包まれた。


「!?」

3人とも瞬時に振り返り、それぞれの驚きの表情を顔に浮かべた。
八牧は唖然と、ロイドは呆然と、PS2は愕然をその顔に表している。

八牧「何事だ……」

ようやく口から出たのはその一言で、その後は何も続かなかった。
止まっている間にも居酒屋は煌煌と燃え続けている。

PS2「……助けなきゃ!」

金縛り状態から動けるようになったPS2が燃え盛る居酒屋へ走り出そうとしたが、
その体を止めたのは八牧とロイドだった。

八牧「もう行っても手遅れだ。ここで行けばお前まで焼け死ぬぞ!」

強い剣幕で捲くし立てPS2の体を無理やり抑えつける。

PS2「まだ分らないじゃない!それに仲間を見殺しにする気!?」

それでもPS2は行く事を止めようとせず、何とか二人を振り払おうと必至だったが
大の男二人に体を押さえつけられてはどうしようもなく、結局は燃える居酒屋を唇を噛み締めながら見守る事しか出来なかった。



―――重い足取りで、炎の勢いが多少なりとも弱まった居酒屋に近付いた3人は
そこに広がる惨事に再び表情を歪めた。
居酒屋自体既に、爆発と火災で半壊している。
中の様子は明確には確認できないものの、見える範囲で人の形を成したモノは存在していなかった。
……所々に見える何かのカタマリも、炎に身を包まれて動く気配は無い。
視界の端の方で何かが飛び散った物が見えるが、それが何かを確認しようとは思わなかった。

完全に倒壊する懼れのある居酒屋から三人は一旦距離を取り、八牧は思っていた疑問を口にした。

八牧「……これは……どう言う事だったのだ……?」

PS2「……」

ロイド「……」

その疑問に二人は答えることが出来なかったが、
僅かな間思案して、PS2がその重い口を開く。

PS2「これは……Fさんの仕業じゃない?」

その重い一言を告げ、更に言葉を紡ぐ。

PS2「このゲームの参加人数は少なく見ても120人は超えていたわ。
    そんな大人数の監視をFさんとkasumi、それにStarburstさんだけで監視出来るとは到底思えない……
    他にも監視の人が居るのかもしれないけれど、それでも120人は多すぎるわ。」

そこまで言って言葉を止め、ロイドを見やる。
意味を理解したロイドは、その後を代わりに続ける。

ロイド「だから参加者が大量に集まっている居酒屋を爆破したと?」

PS2は無言で頷き今度は八牧を見やる。
八牧は何かを思案し、やがて口を開く。

八牧「そうかも知れないな、しかしそれなら居酒屋だけじゃなく人が集まっているところは全て爆破されたと言う事か?」

PS2「そうかもしれないしそうでないかもしれない、
    でも、何にしてもこれがFさん達の仕業って可能性は高いわ。」

喋っているうちに怒りが込み上げて来て、言葉の後半は怒気が篭っていた。

八牧「何にしても……やる事は決まったな。」

PS2「えぇ。」

ただロイドはそれに返事も頷きもしなかった、そして

ロイド「……俺も考えは一緒だ、ただ俺は……」

そこで俯き、言葉が止まる。

やがて顔を上げ、PS2、八牧 茂の顔を見遣り、言葉を続ける。

ロイド「俺もFが居酒屋を爆破したのだと思っている、ただそれにkasumiが関与しているとは思えない。」

PS2、八牧とも何も言わず更にロイドの言葉を待つ。

ロイド「……だから俺は、俺のやるべき事をやろうと思う。」

八牧「……死ぬ気じゃないだろうな?」

不安に駆られ八牧がそう問いただすと「妻子を残しては死ねんよ」と強気に答え、八牧・PS2は共々安堵した。

八牧「ならここで一旦お別れだな。」

そう告げるとロイドは「あぁ」と頷き、一度だけ未だに燃え続けている居酒屋に敬礼し踵を返した。

PS2「私達はFさんを倒すつもりよ。貴方もやるべき事が終わったら―――

言い終わる前にロイドは「分っている」と言ってPS2の言葉を遮り

ロイド「俺は自分の目で自分が信じる真実を確かめてくるだけだ。」

そのまま二人はロイドの背中を見送った。

何時もの戦場なら「あばよっ!!」と低い声で言う彼がここで言わなかったのは、彼なりの「また合おう」と言うメッセージなのだろう。

PS2「私達も行きましょうか。」

居酒屋の前に持っていた『月見語り』を添え、拝み八牧と向き合い優しくそう言った。
八牧は頷きPS2と共にロイドとは違う道へと進んで行った。



居酒屋は既に原型を留めてはいなく、炎も火に変わり、僅かに揺らぐだけの頃には
周りにはもう誰も存在していなかった。


ゴソゴソ……ゴソゴソゴソ…………がばっ

―――周りには誰も存在していなかったが、その『火の中』には存在していた。
フィーネ・エレンシアは、あの爆発の中、奇跡的に無事に生存していたのである。
それは運が良かったのか、或いは酒の神様に魅入られていたのか……何にしても彼女は無事生きていた。

フィーネ「何だろ〜?凄く大きな音がしたんだけど……ん〜、なんかお店、風通しが良くなってるね〜
     あれ??あんなところに『月見語り』が落ちてるじゃない。貰っておこ〜♪
     これを飲んで私は燃えろイイ女〜♪年増とは言わせない〜♪」

奇妙な鼻歌を歌いつつ、フィーネ・エレンシアは上機嫌で『月見語り』を飲み出した。
生まれながらの酒豪で廃人なフィーネ・エレンシア。
彼女が周囲の状況に気が付くのは、まだまだ当分先の事になりそうであった……
【Joe The Apach 他30名余 生死不明】
【フィーネ・エレンシア 銘酒『月見語り』入手】




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