子供染みた考えは本来自分の考えではないのだけれど、
その時ばかりは場所に不釣合いな程に心が躍っているような感覚に見舞われた。


Scene 04



全員にデイパックが配られている時に、やたらに目に付くデイパックを発見した。
それは他のデイパックとは違い、異様に膨らみを帯びており一見して只物じゃない物が入っている事を容易に想像する事が出来た。
何せ他のデイパックときたら、多少の丸みは帯びてはいるもののアレとは比べ物にならないくらいにそれは僅かでしかなかった。
期待と羨望の眼差しを向けていると、愈々(いよいよ)自分がデイパックを受け取る順番が周ってくる。
視線をデイパックの山に向けると、そこにはまだ例の異様に膨らんだデイパックが残っており、
配給係を任されている副管理人のkasumiが、今まさにそのデイパックに手を掛けようとしていたところであった。
内心でガッツポーズを決め、そのまま暫し待っていると、
左腕に2つ、右腕に2つ、両手で抱えるようにして1つと、計5つのデイパックを持ってkasumiが現れた。
見掛けによらず怪力?などと小首を傾げながら、両腕で抱えていたその異様に大きなデイパックを受け取った。
受け取る際、kasumiが何かを哀れむように視線を向けたのは気のせいだったのだろうか?

彼は知らなかった。
デイパックには和泉 楓が細工を入れてあり、
その細工が施されたデイパックは全て一定の重さで構成されている事を。
彼は知らなかった。
その細工が施されていないデイパックが少数存在し、
今彼が手にしているそれもその少数の1つだと言う事を。
そして、彼女は知っていた。
その細工されていないデイパックが少数存在し、
彼が手にしたその中身が当たりでない事を。



―――Fに言われるがままにスタートを切った架空は、何よりも先に今、手に持っているデイパックを開けたかった。
しかし、今はまだスタートして間もない地点で、ここで悠長に開けていては何時何処から攻撃されるか分かったものではない。
仕方がないので、一旦その地点から遠く離れ、安全を確認したら開けようと心に決めていたのだ。
良く言われる『楽しみは後に取っておく』と言うタイプなのかもしれない。
取り合えず現状の方針は『ひたすら遠くに隠れる』と決めた架空は、馬車馬の如く山道を軽快に降りていた。
途中で何度か人影を捉え、ある者は行き成り発砲をしてきたり、
別のある者はこちらの姿を見るなり後方に逃げていったりしたが、この際関係なかった。
今はただただ走り抜け、まだ誰も踏み入れていないであろう地点で、この『何か』がたんまり詰まったデイパックを密かに開ける事が先決だった。
およそ20分程走り続け、岬と思われるところに抜ける。
地図も武器もデイパックの中にあり、当然まだ開けても居ない架空には、自分が何処を目指しているかサッパリ分かっていなかったが、
どうやら島の端と思われる場所について、ようやく足を止めた。
「ハァ、ハァ、ハァ」と肩で呼吸をしつつも、取り合えず隠れる場所を探すため辺りを見回すと丁度良い岩陰を発見し、そこへ移動する。
移動最中、息も絶え絶えなのに顔が笑みで綻んでいたのは内緒だ。
岩場に腰を下ろし陰で諸休憩を挟み、そして悠々とそのデイパックを開け始める。

(さぁーて、どんな当たり武器が拝めるかな♪)

意気揚々とデイパックを開け、中を覗き込む。

(・・・・・・あれ?)

中身を見て少々動揺し、一旦デイパックの口を閉じ、「すぅー」と大きく息を吸い、「ふぅ〜」と息を吐いて深呼吸をする。
先ほど見た物は目の錯覚だろうと思い、心を完全に落ち着け、酸素が足りなくなった脳にたっぷりと酸素を送り込み、意識を鮮明なものへと覚醒させる。

(これで良しっと、さて 今度こそ、その素敵な武器を見せて貰いましょうかね)

先ほどと同じようにデイパックを意気揚々と開け、再び中を覗き込みまた閉じる。

(・・・・・・あれれ?)

一旦心と体を落ち着けた状態なのに、視覚で捉えたであろう物は初め見た時と何ら変わりの無いもので首を傾げる。

(おかしいな・・・・・・ あっ、暗いから見間違えたのか)

妙な納得をしつつ、場所を岩陰から少し離れ、日の光を直に受ける地点へと移動し、
更に何時も付けているお気に入りのゴーグルも額にズラす。
準備を万端にし、あくまで自分が視たものを認めようとはせずに、三度目の正直に賭ける。
本日これで3回目となる意気揚々とした状態でデイパックを開け、
今度は覗き込むのではなく、そのデイパックを逆さに持ち、そして振った。

ザバッ・・・・・・

と言う愉快な音と共に、そのデイパックの中から出てきたのは、ルールブック、コンパス、地図、水、パン、
・・・それに山のようなポケットティッシュと一つのボックスティッシュだった。
もう3度も見てしまうと認めざるを得ない。
そして気付く、デイパックを渡す際にkasumiが哀れむような視線をしたことを。

「・・・・・・ユカイダネー」

架空はその場で放心状態となり一人、「あはははは、あーユカイダネー」と空笑いと虚しい小言を呟き続けていた。
結局彼がその状態から回復したのは、一連の爆発騒ぎが起きた後の事であった。




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